大阪市中央区で開業している社会保険労務士・澤千恵さんは、独立6年目を迎えた48歳。
安定した労務顧問のほか、給与計算、労務相談、セミナー、
さらに人事制度コンサルティングも行う順風満帆の現在ですが、
「最初からそういうわけでは」とのことで、さっそくこれまでの道のりを伺ってきました。
独立したばかり、あるいは独立間近という方々はもちろん、
「さいきん、イマイチ伸び悩んでいるかも」と焦りを感じている、
独立から数年経つ士業の方々にも参考になる、
「士業のキャリアの積み方」を5回連載でお届けしましょう。
聞き手は、ネクストフェイズ編集部です。
【もくじ】
第1回 独立開業後に役立った、自分の情報発信方法
第2回 駆け出しの社労士に、おすすめできる営業法は
第3回 もし、人事制度コンサルの仕事を手がけたいなら
第4回 事務員の雇用に踏み切った、社労士ならではの理由
第5回 士業としての、ブレない値決め
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第4回 事務員の雇用に踏み切った、社労士ならではの理由
―― 事務員さんについて、お尋ねしたかったんです。澤さんが初めて事務員さんを雇用したのは、いつのころでしたか。
澤 独立してから2年ほど経ったころでしょうか。
―― ずっと同じ方?
澤 そうです。私と同じ主婦の方で。
―― 月~金曜で来ていただいて、助かりますよね。
澤 そうなんですよ。自分が仕事に集中しているときに電話が入っても、スッと取ってくれますし。書類も、もう私がいなくても作ってくれるので、ものすごく助かります。
―― 採用のときには、有資格者かどうかは?
澤 全然こだわりませんでした。人を雇うときって、資格がある/なし、ではないなあって。だってたとえ資格をお持ちでも、もし私と合わない人だったら…。ほとんどずっと一緒にいるので、お見合いみたいなものですよ、人を雇うって。この人とずっと一緒にやっていけるかなという。
―― お人柄?
澤 そう、お人柄、相性みたいなものですね。業務知識は、勉強したらだんだんついてくるものですし、そこは心配いりません。その手のことで大変なのは、入所時だけですよ。
―― 初めてのお客さまが独立半年後、そして独立から2年経ったころに、初めての事務員さん雇用…。思い切りましたね。
澤 ええ、頑張りました(笑)。
―― 頑張って、思い切って、事務員さんを雇用なさったのはなぜ。
澤 私、以前に勤めていた社労士事務所には、パート事務員として入所したんです。でも事務員でも、ひとりでお客様を訪問することがあったんですね。で、就業規則だったら就業規則の打ち合わせとか、こうしましょう、ああしましょうというお話をすることもあったんですけど、どうしても私は、雇われている立場なんです。もちろん、半端な気持ちで訪問させていただいたのではありません。でもお客さまから「この人は事務員」とか、その後に資格は取ったものの「たとえ資格があっても、経営者ではない」というようなニュアンスが伝わってきて。
―― 伝わるものなんですね。
澤 伝わります。「経営者の気持ちがわかっているか」と問われて私がイエスと答えたとしても、「いや、あなた、雇われている側の人ですよね」という相手さんの気持ちが、何となくわかって…。私、それがすごく、もどかしかったんです。やはり経営者と同じ立場で、同じところに立ってアドバイスしないと、自分の言葉は相手に届かないんじゃないかと思って。
―― ああ…。
澤 そんなもどかしい時期があり、次に、「この仕事を、もし、ずっと続けたいなら、独立した方が、さらによく相手にアドバイスが伝わるのでは…」と。
―― 独立した方が。
澤 はい、独立した方が、経営者に対して、本当の意味でのアドバイスが行えると思います。法律に合っているかどうか、といったご質問に対してなら、独立していなくても、たとえ資格を持たない事務員さんでも判断できるでしょう。ただ、そもそも自分が雇われている側だと、「経営者の視点でアドバイス」といっても説得力が…。
●大きな窓からたっぷり光が入る、心地よいオフィス。澤さんの左の白いデスクが事務員さん用。応接セットは、気持ちが明るくなるオレンジが基調
社労士は、独立開業だけではなく、人を雇ってこそ
澤 独立して、事務所を経営する立場にはなったけれど、私、人を雇ってなかった。でも人を雇っている側の気持ちがわからなかったら、この手のアドバイスってできないんだなあと思うんですよね。それもありまして、初めての事務員さんの雇用を決めたんです。
―― そうでしたか。
澤 今のところの弊所は、けっして自分ひとりで絶対できない仕事量ではないと思いますよ。私が、ものすごく頑張ったら(笑)。
―― ものすごく頑張ったら(笑)。
澤 ええ、でも私が人を雇ったことがなくて、自分の身銭を切って他人にお給料を払ったことがないのに、経営者に対して「お給料を払うということは」とか言っても…。賃金そのものについてはもちろん、従業員についても「そういった人でしたら退社いただいた方が…」とか「いやいや社長さん、こう指導してみてはどうでしょう」とか、雇用や賃金や従業員についてアドバイスする私自身が、人を雇ったことがないというのは、これはやっぱりいけない、と思ったんです。
―― なるほど。
澤 だから別に、うちのスタッフがすごく忙しく作業をするほどボリュームのある仕事量はまだ今はないんですが、「自分で、ちゃんと人を雇って、事業を、事務所を回していく」という実践を、私だって曲がりなりにもやっていかないと、経営者の立場で、ものごとが見えてこないんです。
―― 自分こそ、同じ立場で。
澤 そうです。たぶん、「社労士だから」、なのかもしれません。
―― 社労士だから?
澤 たとえば税理士さんなら本業が税務ですから、まずは税務に強いことが第一の前提です。でも私は、社労士。「人」の話をするのが本業です。人の話をするには、やっぱり自分が人を雇っていないと…。先方さまからもね、「先生は誰も雇っておられないのですか?」くらいのニュアンスを、言葉の端に感じたことがあります。
―― ありますか。
澤 というのも、「人を雇うときの気持ち」って、特別なものがあるんですよ。「採用するときの気持ち」「辞めてもらうときの気持ち」は、ほかに比較するものが見つからないくらい、特別です。それを自分が身をもって経験してみないと、経営者に届くアドバイスができないんですよね。
―― 澤さんは徹底的に「経営者と同じ目線で」なんですね。
澤 その通りです。
―― ところが相手は同時に「お客さま」、でもあって…。
澤 そこなんですよ。私も士業は基本的にサービス業、だと思っています。しかし、これは私だけの考え方かもしれませんが…。
(第5回につづきます)
今日のまとめ
●独立開業して自分で事業を回すことで、経営者と同じ立場からアドバイスができる
●「人」に関わるアドバイスを行う社労士だからこそ、自分も人を雇って、経営者と同じ目線に立つ
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澤千恵社会保険労務士インタビュー <全5回>
「独立後の士業キャリア、どう積めばいいですか?」
【もくじ】
第1回 独立開業後に役立った、自分の情報発信方法
第2回 駆け出しの社労士に、おすすめできる営業法は
第3回 もし、人事制度コンサルの仕事を手がけたいなら
第4回 事務員の雇用に踏み切った、社労士ならではの理由
第5回 士業としての、ブレない値決め