2015年3月10日午後3時、「外れ馬券訴訟」について、最高裁が一審・二審の判決を支持し、所得税法違反で訴えられていた大阪のAさんの無罪が確定しました。この裁判の弁護人は、つい先日ネクストフェイズの士業インタビューでご登場いただいた、中村和洋さんです。
こんにちは、ネクストフェイズ編集部(以下、編集)です。士業インタビュー記事の取材のために中村さんにお会いしたのは、この2月でした。その後、たまたま、本当に偶然なのですが、くだんの裁判についての最高裁の決定が3月10日に出ることになったのです。
取材時はそんなタイミングで判決が出るとは想像だにせず、中村さんといえばはずすわけにはいかないこの訴訟について、もちろんお話をお聞きしていました。が、士業インタビュー記事は「士業のみなさんにとって参考になる仕事術や経営術を」という主旨ですし、ほかにお伝えすべき具体的ヒントをたくさんいただいたので、訴訟についての部分は公開しませんでした。
しかし! このたびの最高裁の決定です。中村さんの許可をいただいたうえで、当時カットした以下の記事をお届けすることにしました。カットしたものの、しかし編集としては、とても発表したかった箇所です。なぜなら…。理由は、インタビュー記事の下で!
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中村和洋(なかむら・かずひろ)さん
弁護士。
●検事経験を豊富に持つ貴重な若手弁護士として、また、名高い「外れ馬券訴訟」※の弁護人としても活躍。
※大阪市のAさんが独自のシステムを構築して大量かつ反復的に行った馬券購入を、「営利を目的とする継続的行為」とし(=一時所得ではなく雑所得としての扱い)、外れ馬券も経費に算入できると訴えた裁判。
一審・二審でAさんの主張が認められ、現在は検察側が上告中。2015年3月10日に最高裁の判決が言い渡される予定。
●弁護士法人中村和洋法律事務所 http://www.k-nakamura-law.jp/
※取材当時は独立3年目、43歳
【特別篇】 「誰ががんばるの? 法律家でしょ!」
中村 いや、それもまた地味な話で(笑)。
―― 地味だなんて!
中村 税金の事件って、全体の件数も少ないんです。それに相手が国なので、まあ、まず勝てないんですよ。たいがいは。
―― なぜでしょう。
中村 国税庁というのはたいへん強い組織ですから。そこと裁判して勝てるなんて、まあないです。そんなことめったにない。だから国税相手に裁判しようなんて弁護士も、あんまりいなかったんですよね。
―― 少ないんですか。
中村 東京、そして大阪にもおられますが、「専門」となると数は少ないですね。
―― なぜ中村さん、そんな税務訴訟に力を入れようとお思いになったんですか。(編集部注:中村さんの得意分野は、①刑事事件、②税務訴訟、③行政訴訟の3つ)
中村 そもそも件数が少ない、しかも勝ちにくい、なんてことより、あのう…好きだったんです、税法が(笑)。
―― 好きって(笑)。
中村 私だって、今の税務署のやり方が、全部が全部間違っているだなんてぜんぜん思っていません。ただ、ところどころおかしい(笑)。
―― ところどころ(笑)。
中村 税理士の多くも、納税者の多くも、理不尽だなあと思いながらも、言いなりにならざるを得ないんですよね。国税庁、強い組織ですもん。でも、おかしい点は是正しないといけない。そんなとき誰ががんばるの? 法律家でしょ!と思いました。
―― !!
中村 とはいえ、裁判に持っていっても、国が有利なんですよね。裁判官のなかに「国は間違えないだろう」というバイアスが、昔ほどではありませんが、やはり残っています。たしかに、もし「国がいつも負ける」という状況だったら、それはそれでヘンですよ。でも、「国は間違えないだろう」という考えに固まってしまうことだって、おかしいと思うんですよね。
―― おお…。
中村 こういうのって、自分の事務所が儲かる・儲からないとか、商売になる・ならないとかに関わらず、やっていかなくてはいけないことなんです。
―― 法律家だから!
中村 法律家だから(笑)。そして、自分の経歴、手がけてきたことなどを考えれば、「できる!」という絶対の自信があるとまでは言わないけれど、「他の人よりは向いているだろう」と私は言えるんです。
(【特別編】、おわります)
弁護士だけの話ではなく
はい、こちらふたたび編集です。「なんかおかしい、じゃそこでがんばるのが法律家でしょ」という中村さんの言葉に、編集は衝撃を受けました。
「なんかおかしい、じゃそこでがんばるのが法律家でしょ」とは、なにも弁護士だけが言える言葉じゃないかもしれない、と編集は思ったのです。税理士なら、社会保険労務士なら、司法書士なら…と、いろんな士業の仕事に引きつけて考えることができるかも、と。たとえば「なんかおかしい、じゃそこでがんばるのが税理士でしょ」とか、「なんかおかしい、じゃそこでがんばるのが社労士でしょ」etc…。
また、「法律家」という言葉を、「専門家」「プロ」という言葉に置き換えれば、士業でなくとも各種コンサルタント、そしてたいへんおこがましいのですが、たとえばわたくし、編集のような仕事にまで応用できるかも…とまで考えを進めたりもしました。
自分の仕事で、「なんかおかしい」を変えていける?
もちろん私たちは「お仕事」をしているわけですから、なにも無料でとかボランティア精神でとかいった点を強調しているのではありません。その点は(別の話題のときに)中村さんも言及しておられましたので、はっきりお伝えしておきますね。
そうではなくいま編集が考えているのは、「普段から“なんかおかしい”と思っていたことを変えていけるほどのポテンシャル」が、たとえ弁護士じゃなくても、士業じゃなくても、どんな職種・仕事にだって備わっているんじゃないかな、ということです。「自分の知識や技術が、お客さんの役に立って、感謝されて、ああよかった」で終わることなく。
じゃ税理士なら何ができる? 社労士なら? 税理士がいつも思っている「なんかおかしい」ことって何? 社労士が「もっと何とかならないのか」と歯がゆく感じていることって何? …中村さんの「そこでがんばるのが法律家でしょ!」という言葉(意志)と、今回の最高裁の判断による「税務訴訟で勝つことだってできる」という事実(結果)に触発され、各士業のポテンシャルに対する想像、ただいま膨らみ中です。今後また機会を見て、このブログでお話ししていきましょう。どうぞご期待ください。
以下は中村さんインタビューの連載記事です。士業のみなさんの普段の仕事や経営に役立つヒントを、たくさんお聞きしています。この機会に、ぜひまとめ読みを!
中村和洋弁護士インタビュー(全5回+特別編)
「紹介」が多いのはなぜですか?
【もくじ】
第1回 紹介と、その準備。
第2回 ネット広告と、フェイスブック。
第3回 餃子専門店と、人柄。
第4回 交流会の料金と、主催者。
第5回 士業と、和菓子。そして、桶。
【特別篇】 「誰ががんばるの? 法律家でしょ!」