むかしむかしあるところに、
国民年金第一号被保険者のおじいさんと、
「社会保険の老後に憧れる」と、近ごろ街にパートに出はじめたおばあさんが住んでいました。
ある日おじいさんが山へたきぎを採りに行ったとき、罠にかかった一羽の鶴を見つけます。
「えさ取りの途中だったのだろうか…… 勤務中のケガならば労災案件では」
おじいさんは、とっさに労災指定病院への連絡を考えました。
が、なにぶん山のなかでスマホが圏外だったため、とりいそぎ罠をはずして応急処置をしたところ、
鶴は元気よく飛び立っていきました。
勤務中のケガの責任は雇用主が負うべしと義憤にかられたおじいさんでしたが、
鶴の雇用主が不明で、また鶴がフリーランスで雇用保険に入っていない可能性も考慮し、
まずは鶴が職場復帰できた現実を喜ぼうと思って、労基署には黙っておくことにしました。
その夜、おじいさんがおばあさんに鶴を助けた話をしていると、玄関戸を叩く音がします。
扉を開けると、ひとりの娘が立っていました。
「どうか一晩の宿を」という言葉をふたりが好意で受け入れると、
娘は喜んで食事の手伝いなどの労働を提供しました。
翌朝、娘は早く起き、食事の支度を始めました。家のなかもピカピカに磨かれています。
「雇用契約を結んでいないのに」と、ふたりが申し訳ながると、
「みなし労働時間制でもいいし、あるいは試用期間ということでも」と娘が提案してきました。
「労務には詳しくないので、わたしの職場がお願いしている社労士に相談してみましょう」と
パート勤めのおばあさんは言いましたが、おじいさんは「なんだか水くさいのう」と一笑に付し、
3人はそのまま一緒に住むことになりました。
ある日、娘は、機織りをしたいので糸を買ってくださいとふたりに頼みました。
おばあさんがパート帰りに街で糸を買ってくると、
娘は「織りあがるまで、けっしてのぞかないでください」と言って自室に引きこもりました。
その後3日3晩たってようやく、娘は年調後の社労士のように疲れた顔で部屋から出てきました。
細くやせた手には、美しい布。
「この布を街で売って、そのお金でまた糸を買ってきてください」
おばあさんがパート帰りに街で売ると、お殿さまが高い値段で買ってくれました。
そのお金で糸を買って帰ると、娘はまた機を織るため自室に引きこもりました。
「おじいさん、娘は働き過ぎではないでしょうか」
「しかし娘が希望しているのだし、うちにはとくに就業規則もないし」
「やはり、わたしの職場の社労士に相談しようかしらと思って」
「そんなたいそうな」
「せめて少し様子を見てきましょう」
「いかんよ、雇用契約違反だ」
「その肝心の契約書すら、交わしていないではありませんか」
おじいさんを振り切って、おばあさんが娘の部屋をのぞいてみると、
そこにはやせこけた一羽の鶴が、くちばしで自分の羽根を抜きながら布に織りこんでいました。
驚いたおばあさんが居間に戻り、おじいさんに劣悪な労働状況を訴えているとき…
機の音が止み、まるで算定後の社労士のようにやつれた娘が、また美しい布をかかえて出てきました。
「わたしは助けてもらった鶴です。ご恩をお返ししたくて変身してまいりましたが、今日でお別れです」
「わずかでも慰労金をと思うのじゃが、わしは個人事業主で退職金制度を整備しておらんのじゃ」と
おじいさんが涙でわびると、娘は「そもそも雇用契約を結んでおりませんし」と優しく答えるのでした。
「高額でお買い上げになった、あのお殿さまは、もしやそなたの化身では」というおばあさんの疑問にも、
「自爆営業を強制されたことはいちどもありません」と娘はきっぱり答えます。
さいごにふたりが「ブラック労働をさせておらんかったじゃろうか」と不安げに尋ねると、
「わたしはツイッターもFBもブログもやりませんので、拡散の心配はご無用です」と娘は微笑み、
鶴の姿に戻って空に舞い上がりました。
「社労士に相談していれば、娘は残ってくれたのかも」と、おじいさんは力なくつぶやきました。
「わたしの職場の社労士に、いちど来てもらいましょう」と、おばあさんは力強く言いました。
そのあと――。
伝え聞くところによると、ふたりは末永く幸せに暮らしたということです。
というのも、おじいさんはその後、なぜか罠にかかった鶴を見つけては逃がしてやることが増え、
おばあさんは勤め先の顧問社労士と新規で契約し、労働環境の整備に尽力したからだそうな。
彼女は、ほどなくパート勤めを辞めたとか。なんたって、雇用主になりましたからね。
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