- 2024-11-14
- スモールM&A・事業再生
- 事業再生, 企業価値担保権
連帯保証人になるリスクを負ってまで買いたいと思わせてくれる企業は、そう簡単に見つかるものではありません。
こんにちは。株式会社ネクストフェイズのヒガシカワです。
2024年10月24日、元上場企業の船井電機が破産し、連結会社を含めると社員2000人が一斉解雇となりました。破産した要因のひとつが、買収した会社の「連帯保証人」となってしまったことでした。
致命傷になったM&Aと連帯保証
もともと船井電機は、ビデオデッキやDVDレコーダー、液晶テレビ等のOEM供給を通じて、低価格帯でシェアを拡大してきました。
しかし近年は韓国・中国メーカーの台頭により、シェアは低下し販売は伸び悩み。業績低迷の打開策として、2021年に秀和ホールディングスの傘下に入り、再生の切り札として、脱毛サロン「ミュゼプラチナム」を買収しました。
この「ミュゼプラチナム」の買収とそれに伴い連帯保証人となったことが、船井電機の致命傷となりました。
ミュゼプラチナムは大量の広告出稿で知名度は高かったものの、当時から経営状態は悪かった、と言われていました。M&Aするにしても、緻密なデューデリジェンスをするべきだったのに、莫大な広告費の未払いが後ほど発覚したのです。
※満足なデューデリジェンスができなかったのか、粉飾した財務資料でデューデリジェンスをしたのかは不明ですが…
また、買収時に連帯保証人になったことから、後ほど発覚した莫大な広告費の未払いを船井電機が被ることになり、それが資金繰りを大きく圧迫する要因となり、破産せざるを得ない結果になりました。
どう考えても、「買うべき企業ではなかった」ということです。
今後、小規模企業のM&Aは増加傾向になる
帝国データバンクの「全国「後継者不在率」動向調査(2023年)」によると、後継者が「いない」、または「未定」とした企業は全体の53.9%に上ったとのこと。
本調査でのサンプル数は27万社ですが、日本全体の企業数は約360万社(※1)。その53.9%ということは、194万社は後継者がいないということが推測されます。
※1 『中小企業白書/小規模企業白書 2023年度(中小企業庁)付属統計資料』から抜粋
後継者不在のため、黒字ながらも廃業を選ぶ企業は少なくありません。このような黒字企業の「売却」が、金融機関主導により、今後増えていくものと予想されます。
なぜなら黒字である取引先が廃業になると、金融機関は優良な取引先を失うことになるからです。なんとしても廃業を防ぐために、かつ手数料収入を上げるために、金融機関は今後、その企業を「売却」する動きに出ます。
企業価値担保権制度の創設がM&Aを加速させる
2026年末までに「企業価値担保権制度」が創設されます。企業価値担保権制度とは、以下のとおりです。
■ 有形資産に乏しいスタートアップや、経営者保証により事業承継や思い切った事業展開を躊躇している事業者等の資金調達を円滑化するため、無形資産を含む事業全体を担保とする制度(企業価値担保権)
■ 企業価値担保権を活用する場合、債務者の粉飾等の例外を除き、経営者保証の利用を制限する。
=「経営者保証が不要になる」※ヒガシカワ注
●事業性融資の推進等に関する法律案 説明資料(金融庁)
企業価値担保権制度の詳細については、以前のブログをご参照ください。
この企業価値担保権の出口(担保権を実行する場合)が、事業売却です。この「企業価値担保権制度」が開始・利用されるケースが増えると、必然的にM&Aの件数は増加します。
簡単にM&Aの買い手となってはいけない
後継者不在により、黒字の会社の売却案件が今後増える可能性は高いと考えられます。しかしこのような話を持ちかけられても、イージーに乗っかってはいけません。
顧問先や知り合いの経営者から「M&Aで会社を買おうと思っている」という相談があったら、士業・コンサルタントは「拙速に買収しようとせず、緻密なデューデリジェンスを行ったうえでの検討が重要」と伝えてください。
M&Aの場合、売り手のアドバイザー企業が成約を急がせることが少なくありません(手数料を早く稼ぎたいため)。そんな急ぎの案件の場合は、断っても問題ないぐらいです。
もし買収をするなら、「経営者保証の扱い」を確認することが重要です。安易な買収と経営者保証によって、船井電機のように会社が傾いたら意味がありません。
今後は士業・コンサルタントとして、「その買収を行うべきかそうでないか」というシンプルなアドバイスができる知識を備えておくべきではないかと思います。
M&Aは事業再生の手段の一つです。とくに赤字企業の場合、資金豊富な企業による買収で、持っているリソースをうまく活かして業績を復活させる事例はよく見られます。
またM&Aで企業を売却する前に業績を回復させることができると、価格を大幅に引き上げることができます。
今後M&Aが増加する時代に備えて、士業・コンサルタントは事業再生のノウハウを「ひととおり」持っておきたいもの。知識があるかどうかで、大切な顧客が得られるメリットが大きく変わってくるからです。
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